賃金引き上げに向けた取組事例

事業場内最低賃金を45円アップ

同社は温泉地としても知られる山鹿市で1940年に設立。走りながら顧客を探す「流し営業」ではなく、電話依頼を受けて配車し送迎するという営業形態だ。顧客の8割が高齢者で、日々の通院、買い物など地域に根ざした暮らしの足として親しまれている。このほか、「酒巡りドライブコース」「カヌー体験」「古墳巡りプラン」「平山温泉送迎」「山鹿市内めぐりコース」「熊本県内観光コース」など、地元の観光にちなんだ営業にも力を入れている。
そんな同社が抱えている課題が乗務員不足だ。同社の乗務員数は年々減少しており、このままでは事業内容の縮小のおそれもある。乗務員不足の要因は乗務員の高齢化によって退職者が増えているためで、全国的なタクシー業界の現状と一致している。現状の事業内容を維持、さらに発展させていくためには、今後の退職者数をできる限り抑制しつつ、一定の新規採用者数を継続的に確保する必要がある。そこで、同社は2023年1月に17人の従業員を対象に事業場内最低賃金を45円引き上げるとともに、募集賃金も引き上げた。
「乗務員の雇用条件のうち給与はもっとも重要な要素だと思っています。地域別の最低賃金が年々アップしていることもあり、弊社も早めに賃上げを実施することでより安定した雇用と人材確保に繋げたかった」と西本代表取締役は語る。

業務効率化を推進した両替機と硬貨選別機

同社は厚生労働省の業務改善助成金を活用して両替機と硬貨選別機を導入した。乗務員は釣り銭として少額の紙幣や硬貨を一定数取りそろえて持っておかなくてはならず、乗務員は釣り銭が不足するたびに事務所へ戻って補充しなければならないが、両替機の導入前は配車係や事務担当の従業員が数えながら手渡していた。しかし、電話応対中や複数の乗務員が重なったときは繁雑を極め、計算間違いなども生じていたという。乗務員も待つ時間が長引いて営業へすぐ戻ることができず売り上げにも悪影響が生じていた。両替機の導入により、乗務員は機械に紙幣や硬貨を投入するだけで希望の少額紙幣や硬貨に自動で簡単に両替ができるようになり、両替のために待機する時間がなくなった。配車係や事務員は両替の煩雑さから解放され、本来の業務に専念することができるようになったほか、両替のために事務所で管理していた金庫の集計作業時間の短縮にも繋がった。
両替機と同時に導入した硬貨選別機も、業務効率化に大きな効果をもたらした。硬貨選別機導入前は、手作業で硬貨を種類別に選別する必要があり、その作業にかかる時間は約1時間。導入後は、この作業がわずか2、3分に短縮された。合計額の計算も自動のため、集計ミスもなくなった。
「両替機と硬貨選別機の導入によってこれまで両替業務も担っていた配車係や事務を担当する従業員が本来の仕事に集中できるようになり、乗務員も簡単に両替できてすぐに営業に戻れると喜んでいます。これ、本当に助かっています。」と西本代表取締役は語る。

長く働ける職場作りで継続的な賃上げへ

今後の継続的な賃上げに向けては、運賃への価格転嫁が必要だと痛感している。運賃の変更は国土交通大臣の認可が必要だが、運賃値上げが実施されれば、まずは従業員に還元したいという。
それ以上に同社が配慮しているのが気持ちよく働ける職場環境作りだ。「私たちの仕事は人手がないと回らないので人材は欲しい。しかし、それ以上に大切なのはよりよいサービスをお客様に提供することです。」と語る西本代表取締役。同社のサービスを繰り返し利用してもらうことが会社の着実な成長に繋がるが、それには人材育成がすべてにおいて優先される。それは一朝一夕にはならず時間がかかる。つまり、従業員により快適に、長く勤めてもらえる職場環境を整えることが、人材育成を充実させる大きなファクターと考えているのだ。「よりよいサービスを提供し続けて業績を上げ、継続的な賃上げに結び付けたい。」と西本代表取締役は強調した。

従業員の声

橋本 悠さん
乗務員の日報管理や売り上げの計算確認、請求書発行などの事務を担当しています。賃上げは嬉しいし、とてもありがたいです。一緒に働いている従業員も喜んでいますし、仕事へのやる気も上がりました。両替機と硬貨選別機はすごく助かっています。電話対応中などはもう大変でしたし、計算が合わなくて焦ったことや驚いたこともあったのですが、今はまったくなくなってストレスも解消されました。仕事に集中できるので効率はかなり上がっています。