賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 52
賃上げ取り組み事例

医療法人瑞翔会 旭日クリニック

外来(内科、整形外科、循環器内科、消化器外科)、訪問診療、訪問看護、入院(13床)、短期入所療養介護(6床)のクリニック運営

2024/3/29

業務改善助成金の活用で電動ベッドを導入

内科・整形外科・循環器内科の外来施設のほか、入院用に13床、ショートステイ用に6床のベッドを備えた病棟も併設。長閑な環境で地域に密着した医療活動を展開している。

company 企業データ
  • ●理事長:工藤 龍彦
  • ●本社所在地:青森県上北郡東北町
  • ●従業員数:37名
  • ●設立:2001年
  • ●資本金:1,500万円
  • ●事業内容:外来(内科、整形外科、循環器内科、消化器外科)、訪問診療、訪問看護、入院(13床)、短期入所療養介護(6床)のクリニック運営
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2023年度に平均5.4%の賃上げを実施

旭日クリニックは、青森県上北群東北町で高齢者福祉や障害者福祉サービスを総合的に展開するサンライズグループと共に医療を担う有床クリニック。有床クリニックとは、通院治療だけでなく、在宅での療養や介護が困難な人の入院を受け入れるベッドを備えた医療施設だ。外来患者はもちろんだが、サンライズグループの高齢者施設や障害者施設からの患者も受け入れ、総合的な医療体制を整えている。
同クリニックは2020年から賃上げに取り組み始めた。賃上げは長く行われておらず、職員のモチベーション向上、離職防止のために2022年度に平均3.4%、2023年度には平均5.4%の賃上げを実施した。こうした賃上げにあたっては、役割に応じた能力や成果だけでなく、部署内での仕事のやりとり、他部署への協力、職員同士の休日の調整、明るい雰囲気作りなど、働く仲間への貢献度合いも重視して決めたという。

全職員が業務改善に取り組んだ

賃上げ後の職員の反応はどうだったのだろう。同グループの施設統括でもある平川幹浩経営企画室長は「働くモチベーションが上がり、職場の雰囲気もよくなった」と語る。同クリニックには長く働きたいと願う職員が多く、取材時(2024年1月)は65歳以上が5人在籍しており、最高齢は72歳。定年後(65歳)も働き続けたいという職員は多い。賃上げは、そうした勤続年数の長い職員にとってもさらに働く意欲を高めていることが窺えた。
賃上げを実施するにあたって原資はどこに求めたのだろうか。平川幹浩経営企画室長は「病棟であれば1日平均このくらいの患者様を受け入れてくれればいい。外来や訪問診療なら患者様を1日何人診ればこれだけの利益に繋がるといった、無理のない範囲でかつ分かりやすい目標を示した。これに職員がとても頑張って取り組んでくれた結果が原資となった」と語る。「賃上げを実施するためには、経営状態を安定させて収入高を上げなければならない。そこで、全職員で業務改善に取り組んだ。具体的には日々の業務の見直しによって〝ボトルネック″を見極め、省人化・省力化に着手。さらに接遇を見直し=患者様への職員の丁寧な応対が、結果として新規患者増につながった」という。さらに、患者に対する職員の応対も重要であるという。一例として、コロナ禍のとき、同クリニックに通院歴のない多くの人がワクチン接種を受けにきた。このときに、職員が丁寧な応対を心がけた結果、「ワクチン接種の際の職員の対応が良かった」と新規患者の増につながった。「医師や看護師はもちろん、すべての職員と来院者との信頼関係が安定した経営に繋がっている」と同室長は先を見据える。

電動ベッドの導入で業務効率化と職員の負担軽減

同クリニックは、厚生労働省の業務改善助成金を活用して電動ベッドを2022年の申請で6台、2023年の申請で7台導入した。業務効率化と職員の負担軽減のためだ。それまで同クリニックに導入されていたベッドは手動式で、背もたれの角度や高さ調整をベッド端の下部に付いている2つのハンドルを回すことで対応していた。見た目以上に力のいる仕事であり、作業姿勢も中腰であったことから、腰を痛めないようコルセットを着けて操作する職員もいたほどだ。それが電動ベッドになったことで、背上げ、腰上げ、高さ調整などがリモコンのボタン操作だけで可能になった。電動ベッド導入前、ハンドル操作で大丈夫だからと言っていた職員が、電動ベッドを操作してからは「もうハンドルに戻れない」と感動していたそうだ。同室長は「助成金のおかげで業務効率化はもちろんだが、職員の負担がかなり軽くなった」と喜ぶ。こうした取り組みも、賃金引上げのためには有効だ。
そのほか、同クリニック独自の取り組みとして、訪問看護や訪問診療時の記録をタブレット端末で行い、クリニックのパソコンに集約するシステムを構築している。また、ICT化の一環として職員がベッドまで行かなくても患者の見守りができる器機の導入なども視野に入れ、働きやすい環境作りも推進している。医師の増員、無料送迎バス、医師のプロフィールを表示する待合室のデジタルサイネージなど、患者とのよりよいコミュニケーションにも努力を重ねる。
今後の持続的な賃上げについては「地域医療を支えてくれる職員への還元は当然だと思う。特に、役職者や役割に応じた給与が明確になるような仕組み作りの必要性を感じている」と同室長。同クリニックは、こうした職員への還元、患者へのホスピタリティ、業務効率化を一体的に進めながら、売上増加のための新たな取り組みを模索している。

従業員の声

若松幸子さん
長い間なかった賃上げは本当にうれしいです。私たちの仕事が認められたんだと思い、皆の働くモチベーションがとても上がっています。もともと公私ともに皆で助け合うような働きやすい職場ですが、それがさらにいい雰囲気になったと感じました。電動ベッドは本当に助かっていますよ。膝と腰をかがめて、中腰で重いハンドルを1日に何回も回さなくてよくなりましたから。あと6台早く入るといいねと皆で話しています。そうなれば、すべての入院患者さんへの介助が電動ベッドでできますから、病棟全体の業務効率はとてもよくなりますね。