賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 51
賃上げ取り組み事例

あなぶき興産株式会社

不動産事業

2024/3/29

現行の定期昇給に加えベースアップを実施
人材流動性が高い業界における人材獲得の効果は

「地域課題の解決企業」を標榜する総合不動産会社が、さらなる事業成長を目指して賃上げの継続に取り組む。

company 企業データ
  • ●代表取締役社長:穴吹 忠嗣
  • ●本社所在地:香川県高松市
  • ●従業員数:508名(2024年1月31日現在)
  • ●設立:1964年5月
  • ●資本金:7億5,578万円
  • ●事業内容:不動産事業
company

若年層に手厚いベースアップを実施

2020年頃から不動産価格が上昇を続けている。建築資材と人件費の高騰、円安で海外投資が増えたこと、さらにはテレワークの普及による住み替え需要の増加などが影響しているという。目まぐるしく変化する市場環境への対応が迫られる不動産業界の賃上げについて焦点をあててみた。
香川県高松市に本社を置き日本全国に事業を展開するあなぶき興産株式会社は、マンション分譲等の不動産関連を中心に事業を展開する総合不動産会社である。近年は、暮らしのすべてのシーンでより豊かな価値を提供し、「幸せ」をサポートする総合生活産業の担い手として、地域に密着した様々な事業展開を行っている。介護医療関連、霊園事業、事業再生事業ではホテル、ゴルフ場、スーパーマーケット等の実績もある。さらにはインドネシア、タイ、ベトナムなど東南アジアでの戸建住宅やリゾート開発を進め海外へも事業領域を拡大している。
同社は、2023年7月から正社員と契約社員を対象にベースアップを実施した。若手社員は月額給与に定額1万3,000円、それ以外の社員は1万2,000円を上乗せ。定期昇給を含まない賃上げ率は平均4.5%となる。約30人の契約社員も約6,000円を加算した。これまでも定期昇給率の改善などは実施してきたが、全社員を対象としたベースアップの実施は約20年前に現行の給与形態になって以来初のこととなる。同年1月から社員会との協議を続けたうえでの実施となったが、予め双方でベースアップを検討していたこともあり比較的スムーズに合意に至ったという。

働き方改革に取り組み生産性を向上

定期昇給率の引き上げについては市況を鑑みてその都度対応してきたが、今回のようなベースアップを毎年行うのは難しい。「何かのカタチ」で賃上げを継続していく必要があると考えているが、その「何か」を見つけることが今後の課題であると管理本部人事部の西内グループリーダーは語る。本ベースアップ実施に至るまで、その実現のためには生産性を上げる必要があると考え、働き方改革に向けて様々な取り組みを行ってきた。3年前から労働時間削減に注力した労務管理として、社員PCの労働時間コントロール(自動シャットダウン)を開始。これには、社員の健康管理という側面もあった。また、2022年7月から年間9日程度の土曜日出勤をなくし、完全週休2日制に変更した。このほか、時差出勤の実施、ミーティングのオンライン化や申請書類のDX化など、様々な業務改革を実施。これらの取り組みにより、就業時間が適正化され業務の効率化が図られただけでなく、結果的には社員や家族の満足度を高めることにもなったという。また、賃上げ原資を確保するための取り組みとして価格転嫁についても検討しているが、同社のメイン商品である分譲マンションは、建設資材をはじめとする仕入れコスト上昇に応じる必要があるためこれから検討していきたいという。

採用ビジョンに基づいた人材獲得に奏功

本ベースアップの実施は、昨今の急激な物価上昇や国内市場の先行きに対する社員の懸念を解消するという目的があったが、もうひとつ人材獲得の目的もあった。「地域課題の解決企業」を目指す同社において、事業成長を牽引していくことができる優秀な学生を獲得するという明確な採用ビジョンに基づいて9年ぶりに新卒初任給を13,000円アップした。これにより、業界内での賃金格差を解消することができた。同社の採用は、東日本、首都圏、近畿、中国、四国、九州とブロックごとに行っているが、各地域において競合する業界外の企業との格差も解消できたという。その効果もあって採用人数は目標通りに達成することができている。また、人材の流動性が高い不動産業界においては人材の定着が大きな課題となっているが、同社では、優れた人材の定着を図るため給与レンジの見直しもベースアップと同時に行い離職防止を図っている。
今回の賃上げ実施は、従業員の生活補填の目的が主であったが、これからは事業成長の推進につなげるための賃上げの実施が必要だと考えている。「不動産の持つ無限の可能性に挑戦し、常に新しい価値を創造する」という創業の精神を継承し、独創性豊かな商品やサービスの提供にチャレンジし続ける社員のモチベーション向上のためにも、賃上げの継続に取り組んでいく。