賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 47
賃上げ取り組み事例

NSユナイテッド海運株式会社

外航貨物海上運送事業およびこれに関連または付帯する事業

2024/3/29

業績の急伸を背景とした大幅な賃上げの実施

海運業界全体の好業績を背景に、全社員のベースアップを実施。市況連動性が高い海運業界における賃上げ継続の取り組みとは。

company 企業データ
  • ●代表取締役社長:山中 一馬
  • ●本社所在地:東京都千代田区
  • ●従業員数:232名
  • ●設立:1950年4月
  • ●資本金:103億円
  • ●事業内容:外航貨物海上運送事業およびこれに関連または付帯する事業
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市況の高騰により、2022年に最高益を更新

日本に輸入される産業原材料の99%は船によって運ばれているという。島国である日本の産業にとって、外航貨物海運はなくてはならない存在である。輸送品の種類に応じて様々な輸送船が存在し、各社の棲み分けがなされているという。コンテナ輸送の「コンテナ船」、液体輸送の「タンカー」、自動車に特化した「自動車船」、化学薬品用の「ケミカルタンカー」などあるが、同社は、鉄鉱石、石炭、穀物などを梱包せずにそのまま輸送する「ばら積み船」を使ったドライバルク輸送のスペシャリストだ。保有する運航船は外航131隻、内航77隻(2023年3月現在)。イギリス、アメリカ、香港、フィリピン、シンガポールに現地法人を置き、上海、ベトナムにも駐在員事務所がある。最長航路は日本 - ブラジル間の輸送で、順調な航海で往復約90日かかるという。まさに、海上ネットワークで世界をつなぐ企業である。
さて、海運業界全体の動向を見ると、新型コロナの影響を受けた2020年は減収となったものの、2021から2022年にかけて状況が一転、海運市況(傭船料)の高騰により大幅増収、業績の急伸に湧いた。同社においても2022年に過去最高益を更新している。

若年層を優遇したベースアップと新人事制度導入を実施

そうした好業績を背景に、同社は組合との話し合いを経て、2023年に大幅な賃上げを実施。業績と社員の努力に対する臨時手当も支給した。大卒初任給は2年連続で上げており、2023年度には13%引き上げ26万3,700円としている。ベースアップについては、30歳未満の若年層の水準を中堅層と比較して大きく引き上げた。もともと中堅層の賃金上昇率は比較的高いこともあり、今回の賃上げにおいては若手優遇の賃上げにしたという。昨今の物価上昇に負けることなく、働きがいを向上できるようにということと、将来への人材投資としての期待を込めての実施となった。
また同社は、2024年度から新しい人事制度の導入も実施する。これまで一般職の定期昇給は、総合職とは別の賃金テーブル(勤務年数等で分けた賃金率)を使用していたが、総合職の賃金テーブルを適用し一本化、評価や目標管理の方式も変える。この職制統合を実施することで一般職の賃金は実質的にベースアップされることになる。本人事制度の改定は、一般職のモチベーションを上げる目的があり、総合職並みの働きを期待するものだ。導入決定当初こそ総合職との統合について戸惑いを感じている一般職女性社員もいたが、会社からの説明や研修などを通し前向きに捉える意識への変化が見受けられるという。今後もサポートを継続し、よりモチベーション向上につながる制度にしていきたいと考えている。

市況耐性を維持するためにも企業価値向上の努力を継続

ベースアップは人材確保において効果が出ているという。競合他社の採用エントリー数がコロナ禍の影響もあり例年の8割程度に止まるなか、同社は例年数を確保できている。「貨物海運業は、いわゆるB to Bの仕事なので世間にあまり知られていません。広告や特別な広報活動を行っているわけでもないので、初任給は就活学生に対する貴重なアピール情報になると思っています。ですから、初任給を同業他社に見劣りしないレベルにすることが重要になるのです」薗田総務グループリーダーはそう語る。海運業は市況連動性が高い。ここ数年の好業績もいつまで続くか分からない。賃上げのために何かをするということではなく、常に企業価値を上げる努力を続け、そうすることで業績は上がり、自ずと賃金や賞与の増額につながっていくと考えている。
今後は、環境への対応、気候変動への対応が業界全体に求められてくる。いま使用している船を、よりCO2排出の少ない新たな燃料の船に買い替えて運用するとなれば時間も資金もかかる。いま転換期を迎えている海運業界のなかで、同社は、社会インフラを支える企業の使命としてこれに取り組んでいく。