賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 44
賃上げ取り組み事例

株式会社A&E

トマトの栽培、出荷、販売

2024/3/29

業務改善助成金でソフトとハードの両面から
農産物の品質アップと生産性を向上し、収益を強化

目指すは、Agriculture(アグリカルチャー)とEcology(エコロジー)の実現。
栽培作業の効率化と生産性アップに照準を合わせ、改善に取り組む。

company 企業データ
  • ●代表取締役:大川 和彦
  • ●本社所在地:鳥取県倉吉市
  • ●従業員数:9名
  • ●設立:2008年
  • ●資本金:1,000万円
  • ●事業内容:トマトの栽培、出荷、販売
company

価格転嫁が難しい現状を、機械導入による作業効率化で打破

農・林・水産業といった第一次産業は、近年の物価高による生産資材などが高騰しているにもかかわらず、生産物の販売価格への転嫁が困難であるのが現状だ。同様に賃上げに伴う原資確保としての価格転嫁も難しい中で、栽培作業の効率化と生産性アップに照準を合わせ、改善に取り組んでいるのが株式会社A&Eだ。
同社は、自然豊かな大山のふもと、鳥取県内でも特に農産物の栽培が盛んな倉吉市で、良質な地下水を利用してトマトを水耕栽培。通常時は、社員6名、非正規雇用3名、合計9名体制で、トマトの収穫期にあたる4月~1月に、およそ20名の季節アルバイトを雇用して対応している。
総務部統括主任の齋尾江利奈さんは、総務や営業、施設運営などのほか、生産部長とともに季節アルバイトを含む非正規雇用の人事評価も務め、賃上げや昇給のタイミングを社長から一任されている。齋尾さんは「物価上昇の影響やトマトへの価格転嫁も難しいため、給与の安定的な原資確保が難しい。ここ数年は最低賃金の改定タイミングでの賃上げに留まっていた」と話す。非正規雇用の給与の上げ幅は、2022年10月に4%、翌年10月は5%。未経験者と経験者で5円の差をつけているが、「いずれも最低賃金に近い金額で働いていただいている」という。
また、農産物の生産者にとって、雇用の確保は必要不可欠だ。「この地域は、季節アルバイトの求人が常にあり、人材の取り合いになることも多い。収益との兼ね合いもあり、募集賃金の調整は課題のひとつです」と齋尾さん。
そこで、同社では給与や募集賃金の原資確保のためには作業効率化や生産性のアップが欠かせず、そのために作業の一部省人化が必要であると判断。業務改善助成金を活用して、生産性アップのための機器の導入に踏み切った。

業務改善助成金を活用し、現場に即した機械を選定

齋尾さんは、トマトの植え付けから栽培、収穫、選果、販売、すべての現場にかかわる中で、特に防除作業に大変な時間と労力がかかっていることを常々感じていた。防除とは、葉や茎に虫を付きにくくするもので、同社のトマト栽培にとって防除は、社名の由来であるAgriculture(アグリカルチャー)とEcology(エコロジー)の観点から、環境に配慮したおいしく安全なトマトを消費者に届けるためにも欠かせない作業だ。使用するのはトマトの生育にもやさしい防除剤。おいしく安全なトマト作りのため、これを1カ月に3回、1ヘクタールの圃場を2日に分け散布する必要がある。これまでは、手動で防除機を押しながら散布する「カート式防除機」を使用していたが、操作する人によって薬剤の散布ムラが発生するだけでなく、作業時間が1回6時間以上にも及び、従業員にとって大きな負担となっていた。
その点を改善するため、2023年に業務改善助成金を活用し、畝の間に設置したレールを自動で往復走行しながら薬剤を散布する「走行式ロボット防除機」を導入。1回の作業時間が4時間に短縮され、薬剤も均一に散布できるようになった。もちろん、レールが設置できないなどで、ロボット防除機が行き届かない箇所は、これまでのカート式防除機で対応しているが、ロボット防除機の稼働中は、別作業にも取りかかれるようになるなど、時間を有効活用できるようになり、作業効率が格段に上がり、従業員一人当たりの生産性も向上した。
他にも、農作物の生長に欠かせない二酸化炭素を効率的に供給するため、外からの空気をハウス内に送り込む「送風機」も、業務改善助成金で導入。トマトの品質を向上させ、付加価値につなげる取り組みも進めている。

栽培コンサルティング導入で生産量が増加

また、同社は社員の栽培知識向上を課題に掲げる。これまで社員独自の経験と勘に頼りがちだったトマトの栽培を、データに基づく生育方法に刷新し、品質の向上と生産量の増加につなげる考えだ。そこで人材育成という形で業務改善助成金を活用し、栽培コンサルティング会社と契約。同社の施設と環境などに応じたオリジナルの栽培シミュレーションをベースとした社員研修や業務提案、サポートを受けながら、2023年度の栽培をスタートさせている。
「農作物の様々な知識を提供いただき、シミュレーションに基づいた作業と管理をはじめて、これまでの栽培がいかに感覚頼りで、無駄な作業が多かったかを痛感しました」と齋尾さん。アドバイスに従い、種から育てるのではなく、苗を仕入れ、植え付ける方法に変更。育苗の工程を削減しただけで、収穫時期が延び、収穫量がアップしたことに驚いたという。また、生育段階で着果数を調整して、計画的な収穫も可能になり、特定の従業員への作業集中が減少した。「作業の効率化で、休日出勤や残業時間が大幅に削減されたことは、今後の求人募集においてもアドバンテージになり得ます」と語る。
同社で栽培されるトマトは、「笑顔と愛情をもって作り上げた気持ち(心)を皆様へ届けたい」との想いで、「笑心(えこ)とまと」と名付け、商標を登録。現在の販路を強化しながら、全国にファンを広げられるインターネット販売にも力を入れ始めている。
コンサルティングで意識改革を進め、機械を導入して省人化を図る。ソフトとハードが賃上げという形で結実し、従業員の幸福につながることを目指している。