賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 34
賃上げ取り組み事例

日本特殊陶業株式会社

①スパークプラグおよび内燃機関用関連品の製造・販売 ②ニューセラミックおよびその応用商品の製造・販売、その他

2024/3/29

役割を7階層のランクで評価する役割等級制度を導入

世界トップシェアを誇るNGKスパークプラグのメーカーとして広く知られてきた。現在では、セラミックス技術を生かしたセンサの他、情報通信、医療などの分野において全世界で事業展開している。2022年4月から管理職層を対象に役割等級(賃金体系)制度を導入し「自律創造人財」の育成を目指している。

company 企業データ
  • ●代表取締役社長:川合 尊
  • ●本社所在地:愛知県名古屋市
  • ●従業員数:3534名(2023年3月現在)
  • ●設立:1936年
  • ●資本金:478億6,900万円
  • ●事業内容:①スパークプラグおよび内燃機関用関連品の製造・販売
    ②ニューセラミックおよびその応用商品の製造・販売、その他
company

年功序列の賃金体系を大幅に変更

同社の社員のうち約20%を占める管理職層の賃金体系は、これまでM1(参事)、M2(主管)という2等級の資格に定義された期待役割(行動基準)に基づく職能資格等級で運用されていた。しかし、この2等級だけでは実際の職務・役割と資格・処遇が必ずしも一致していなかった。そのため、役割や責任が低い高齢の役職者が、若手の優秀な役職者より賃金が高額となり、若手の優秀な役職者が早い段階でより高い役割や責任あるポジションに就いても、賃金にあまり差が生じないという弊害が生じていた。こうした年功序列的な制度を解決しようと導入されたのが役割等級制度だ。年齢や年功によらず、より実情に即した等級体系を模索してきた結果といえるだろう。人事部人事課の瀧課長は制度導入の狙いについて「与えられた役割の大きさに応じて処遇を柔軟に変動させるとともに、役割を整理し、そこに最適な人財を配置することで、メリハリのある人事が可能となった」と語る。

役割等級制度

基本給を役割給と職能給の併存型とし、役割給の割合は基本給の20%~60%で設計されており、一つひとつの役割をより重視した処遇へと切り替えた。職能給は従来通りM1(参事)、M2(主管)の2等級のままで、役割等級は1~7等級で設定。役割等級1~7等級のランク付けは、5つの指標(①専門性、企業・事業理解②関係構築力③困難度④裁量・権限⑤影響の範囲)をそれぞれ4段階で明確にスコア化(点数化)。各指標を乗算した点数により役割等級のランクを決定している。そして、役割等級のランクと処遇を連動させることによって、より高ランクの役割を担う役職者には、それに応じた賃金の支払いを可能とした。

若手の早期登用と最適な人員配置が大きな狙い

役割等級制度の導入で、各ポジションにおける役割が明確に定義され、処遇が決定されることで職務・役割と資格・処遇の一致が促進されることとなった。また、年齢や年功に関わりなく、当該役割に適性のある人員配置が可能となったという。さらに、従来は副部長以上に就任するにはM1の資格が必須条件だったが、役割等級制度導入後はM2であっても就任可能となった。これによって管理職層であればどの役職にも就任できるようになった。若くて優秀な人財が早期に重要なポジションに登用される結果、キャリアアップや成長機会付与にもよい効果が出ているという。また、重要なポジションに登用されるということは、それだけ高い処遇を得られるということであり、仕事に対するモチベーションを高めることにも繋がっている。さらに、経験があり即戦力者となるキャリア採用であっても「役割ランクが高いポジションには高い処遇が得られる役割等級制度で採用の幅が広がった」と人事部人事課の篠田副課長は語る。事実、広い選択肢の提示で管理職層のキャリア採用者が増えているという。

新規事業の創出に向けた「自律創造人財」を

同社の売り上げ収益は、スパークプラグや排ガス用酸素センサなど自動車関連事業が約8割を占める。役割等級制度は、旧制度にあった年功序列の給与体系を改善し、役割に応じた処遇を整備することも目的だが、世界的なEVの普及にあってこれまでの内燃機関に頼ってきた収益構造からの脱却も見据えている。役割等級制度は、新規事業を創出し事業ポートフォリオ転換を図るために、自らの役割を全うする「自律創造人財」の育成に欠かせない制度という。そのためには「会社が積極的に重要な役割を作っていかないといけない。頑張る人を後ろからしっかり支えられる制度としたい」と瀧課長は語った。