賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 28
賃上げ取り組み事例

株式会社平成産業

建設業、貨物運送業、産業廃棄物中間処理業

2024/1/24


建設現場へのパワーアシストスーツの導入、その背景にある業務改善助成金の支援とは

地元テレビにも放映された業務改善助成金によるパワーアシストスーツの導入。従業員を思う社長が語った生産性向上の取り組みとは。

company 企業データ
  • ●代表取締役社長:今本 正仁
  • ●本社所在地:青森県五所川原市
  • ●従業員数:80名
  • ●設立:平成13年1月
  • ●資本金:2,000万円
  • ●事業内容:建設業、貨物運送業、産業廃棄物中間処理業
company

業務改善助成金による大幅な賃上げ、大幅な設備投資

2023年の晩秋、りんごの収穫の最終シーズンを迎えた青森県五所川原市で、我々はある会社に向かって歩いていた。辺りにはりんご畑が広がっており、わずかながら未収穫となっているりんごの木もあった。春先に咲いていたであろうりんごの花の奥ゆかしさはどのようなものであっただろうか、そのようなことを考えながら歩いていると、株式会社平成産業に着いた。同社は、青森県の西部地域で主に土木工事や解体工事を請け負う。この地で賃金引き上げに前向きに取り組んでいると聞いた株式会社平成産業とは、どのような会社であろうか。
「建設現場では手作業も多くある。助成金でパワーアシストスーツを導入し、こういった作業の効率化を行った。」と今本社長は語った。活用した助成金は業務改善助成金という。業務改善助成金の活用にあたっては事業場内最低賃金の引き上げも必要であるが、助成金の受給に当たり、従業員7人の時給を90円引き上げた。また、他に7人の従業員の時給も70円以上引き上げたという。これで業務改善助成金の受給要件を満たし、パワーアシストスーツを18台導入した。多くのパワーアシストスーツの導入に当たっては、相当な金額もかかったであろうことが予想されるが、業務改善助成金は引き上げ額が高額であればあるほど、また引き上げ人数が多ければ多いほど、助成上限額が引き上がる仕組みだ。本件のように、7人の従業員を90円以上引き上げるものであれば、最大450万円が受給できるであろう。

設備投資による生産性向上、そして従業員への還元

「こう、屈んで物を持った時に、背中側に引っ張られる感じがあって、持ち上げるときに少し楽になった。」解体現場で作業中だった従業員はこう語った。先述のパワーアシストスーツは相当な威力を発揮しているようだ。また、同社では、現場作業員の高齢化も問題であった。パワーアシストスーツはこういった作業員の腰痛防止にも役に立っているという。物を運ぶ作業の時に、腰回りが辛くて休憩する時間が減ったという実感もあるようだ。破顔一笑、作業に戻った従業員の足取りはうれしさをにじませていた。 同社の生産性向上の取り組みはパワーアシストスーツにとどまらない。資材や廃棄物運搬に当たり、25tのトレーラーダンプも導入。従前活用していたダンプの2倍以上の積載が可能であり、資材を届けるのに2往復かかっていたところが1往復に減ったという。また、各現場担当者にタブレットを渡し、工事の進捗を現場からも報告できるようにした。このような生産性向上の取り組みにより得た原資を元に作業員の手当を増額。また、従業員の福利厚生サービスとして、「チケットレストラン」も導入。これは会社と従業員が半額ずつ電子マネーにチャージを行い、加盟したコンビニやレストランで利用することにより食事代が半額補助されるというもので、外で食事することの多い従業員にはありがたい制度だろう。

継続した賃上げにあたって社長が語った真に必要なもの

パワーアシストスーツの導入による賃金引き上げの取り組みは地元テレビ局からの取材もされた。放送をきっかけに、取引先や同業他社からも「テレビを見たよ。」と良い反響があったという。しかしこれで順風満帆と言えるだろうか。「企業努力だけで賃上げをしていくのは経営にダメージを受ける。持続させていくためには、業界全体での価格転嫁への理解が必要。」、今本社長はこう語った。2021年12月に「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が公表され、価格転嫁に当たって政府としてのさまざまな取り組みが実施されている。この取り組みを進めていき、価格転嫁に対する理解が得られるよう努めなければならないだろう。
今本社長は賃金引き上げの取り組みは引き続き進めたいという。今後はICTを活用して生産性向上が図れないかと考えているようだ。ICTを活用することにより、法面工事など作業員の技術力が必要であった現場で品質が均一化するなど、大きな生産性向上につながるという。
従業員を思い、還元する。多くを語らずとも、実践でそれを物語る今本社長の奥ゆかしさ。しかし、今後の展望を力強く語るその姿に、青森県の最高峰、岩木山の姿が重なった。

従業員の声

山谷さん(事務)
時給が上がって手取りが多くなった分、財布の紐が緩んでしまいました。友人と遊びに行く機会が増えて、嬉しかったです。