賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 16
賃上げ取り組み事例

社会福祉法人みずき会

社会福祉事業(第一種社会福祉事業・第二種社会福祉事業・公益事業)

2023/3/30

「最良の職場環境の構築」という理念のもと、労働条件の改善に向けた賃上げ等に取り組む。
岡山県に本部を置き、大阪府、千葉県で介護福祉事業を展開する社会福祉法人。

company 企業データ
  • ●代表者:理事長 阿部 泰士
  • ●法人本部所在地:岡山県井原市東江原町
  • ●従業員数:247名
  • ●設立:2001年
  • ●基本金:1.6億円
  • ●事業内容:社会福祉事業(第一種社会福祉事業・第二種社会福祉事業・公益事業)
company

働きやすい職場の環境作りを実現するため、労働条件の改善に向けた賃上げ等を実施

介護の質の向上の第一歩として、「最良の職場環境の構築」を理念に掲げる同法人は、職員が働きやすい職場の環境作りに力を注いでいる。賃上げの取り組みもその一貫だ。この折、毎年1,400万円程度あった借入金が完済した。次なる設備投資も考えたが、足下の物価高を受けた建材費の高騰もあり、それならば、職員の生活の向上と日々の働きへの感謝を込め、職員の賃金に充てるほうが有意義と考え、余剰分を職員に還元することを決定。修理修繕費等を除いた約750万円を原資に、令和3年4月に、正職員に対して、業務手当の2,000円の引き上げ、1回あたりの夜勤業務手当を1,000円引き上げ、勤続給も400円引き上げた。併せて、パート職員の時給引き上げも行っている。引き続きの賃上げ原資の確保も課題となるが、介護用ロボットや心拍数等を自動で測定する体動測定機器の導入など、職員の負担軽減に繋がる業務効率化のための取り組みも進めている。
また、介護の現場は介護職員のみならず、看護師やケアマネジャー等の協力の上で成り立っている。介護職員の処遇改善として国から受ける「介護職員等特定処遇改善加算」や「介護職員等ベースアップ等支援加算」は職員・職種に関わらず支給するほか、介護職員のみ対象となっている「介護職員処遇改善加算」による介護職員の賃上げを行う際に、法人の負担で他の職種も同様に賃上げを行った。さらに、同法人は、感染症予防対策に努めたすべての職員への労いを込め、全事業所職員に対し総額約1,400万円の特別感謝金を支給。これらの取り組みにより、すべての職員が働きやすい環境作りが進められている。

ボトムアップで風通しのよい職場作り、ユニークな手当は職員とのコミュニケーションから

同法人の理念に基づき、職員の意見を吸い上げる風通しのよい環境が構築されている。コロナ禍で集まることが制限された状況の中、無記名アンケート形式で改善事項を収集して取り組みを進めているが、働きやすい職場作りのきっかけはそれだけではない。例えば、マイホームを購入した職員に支給される「住宅ローン手当」は、かつてとある職員が「家を買いたいと思っても住宅手当もなにもない。この業界で働いてもマイホームを手に入れることはできない」と話したのを当時の施設長が耳にしたことを端緒に創設された。また、同法人に多く在籍しているシングルマザー・シングルファザーの「1人分の給料で子供を育てるのは大変」との声を受け、ひとり親の職員を対象とした「ひとり親支援手当」(通称:えこひいき手当)を創設した。こうした職員からの相談や、時には雑談の中から拾い上げた要望までが施設長まで共有され、職員のモチベーションアップに繋がる働きやすい環境が整えられている。

選ばれる事業所、選ばれる施設を作るために

こうした取り組みの成果として、ハローワークやホームページの求人を見た応募者が増加したほか、Uターン人材の確保にも繋がっている。離職者も少なく、また育児休業からの復帰率も100%を継続しており、人手不足感はないという。
介護事業の主な収入源は国からの介護報酬であり、それには上限があるため、賃上げには一定の限界がある。また、介護保険サービスの収支差率は平均3%程度とされているが、同法人は1.5%程度とその率は決して高くない。それでも賃上げを実行するのは、同法人の「最良の職場環境の構築」という一貫した理念に基づくものだ。
時に、職員を気にかけるのではなく、ご利用者にもっと目を向けたほうがいいのではないかと問われることもあるという。しかし、「ご利用者は職員の顔を見ている。職員が楽しく働いていなければ、その雰囲気はおのずとご利用者に伝わってしまうもの。職員への還元が、介護の質の向上に、ひいてはご利用者の生活の向上に必ず繋がることを確信している」と林常務理事は語る。こうした理念のもと、今後も、職員への還元を続けていきながら、「みずき会を利用したい」と思ってもらえるよう利用者ニーズを広げていく考えだ。

職員の方々の声

副施設長 清原さん
物価も上がっている中で賃金を上げてもらい、生活は助かっています。ひとり親手当や住宅ローン手当ももらっていて、さらに子供を進学させたいということで制度を作ってもらって、夢に向かうことができるのは素晴らしいことだと思います。モチベーションも上がりますし、みんなに幸せになってもらいたいと思います。

介護職員 髙岡さん
この施設で働きはじめて10年くらいになりますが、風通しのよさをとても感じています。自由にお話させてもらっているなと感じますし、賃金も少しずつ上げてもらえているのを感じています。

介護支援専門員 芦田さん
施設のオープン時から勤めています。介護士という職種で家を建てるのは難しいかなと思っていましたが、法人からも背中を押してもらい、住宅ローン手当も計算に入れて家を建てることにしました。そうなると、やっぱり長く勤めようと思えるようになります。他の職員とも長くお付き合いしていきたいですし、離職に繋がらないような職場にしていきたいと思います。

総務 三宅さん
入職したときから各種手当などが用意されていて、新しく入職してくる方に、こういう手当もありますよとお話すると喜ばれることも多いです。また、私は一時期育休で職場を離れていましたが、正職員として戻ってきやすい環境だと感じました。