賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 15
賃上げ取り組み事例

河村電器産業株式会社

受配電設備、屋内配線器具の製造販売

2023/4/10

働く環境の整備によって創出される原資を給与アップに反映。

1919年愛知県瀬戸市で創業。産業用・民生用電気機器の製造・販売などの事業を展開。生活に不可欠な電気の安全・安心を届け続け、配電・制御・通信などさまざまな分野で現代社会を支えている。

company 企業データ
  • ●代表取締役会長:河村 幸俊
  • ●本社所在地:愛知県瀬戸市
  • ●従業員数:1917名(国内グループ 2022年3月31日現在)
  • ●設立:1929年11月(創業1919年8月)
  • ●資本金:18億340万円
  • ●事業内容:受配電設備、屋内配線器具の製造販売
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経営に関する具体的な数字をもとにベースアップを決定

河村電器産業株式会社は、2020年4月に正社員の基本給を平均831円(0.3%)一律にアップし、初任給も高校卒~大学院卒まで5,000円から15,000円の範囲でアップした。従来は、会社の業績、社会の状況などを鑑みながら労働組合との折衝で決めていたが、業績のみならず、コスト・売り上げ・利益など経営に関する具体的な数字をもとに労働組合と協議し、ベースアップを決定する方式に変更した。また、3年ごとに、労働生産性、コストダウン、残業時間などを項目別に評価し、一時金による配分ではなく、賞与・残業単価のベースになる基本給を一律に上げることとしたのも特徴だ。

働き方改革による生産性向上を賃上げの原資に繋げる

こうしたベースアップは働き方改革による生産性向上の成果が大きく影響している。定時にPCをシャットダウンさせるなどの仕組みを導入し、時間外労働の抑制につなげた。さらに、全国約60カ所の拠点にあった1,400台の固定電話を撤廃し、スマートフォンに切り替えた。これにより、工場などの敷地の広い拠点で発生していた館内放送による電話の取り次ぎや、組織替えのたびに必要だった電話回線工事がなくなり、年間約1,100万円という費用の削減に結びつけた。これらの成果はすべて賃上げの原資となった。
さらに、2023年度からペーパーレス化に向けて本格的に取り組む予定だ。扱う製品の図面だけで年間数十万枚にも及び、図面の修正や、受け渡しなどのやりとりには膨大な時間とコストがかかる。加えて、図面の廃棄による環境への負荷も懸念される。図面をデータ化すれば、相当なコストダウンと作業の効率化が期待でき、2023年度の働き方改革の取り組みとしてもっとも大きな柱となるという。

充実した福利厚生制度で働く意欲をサポート

充実した福利厚生制度は生産性向上の原動力となる「従業員のモチベーションアップ」を喚起し、ひいては賃上げの原資となる利益の改善につながる。こうしたことから同社が大切にしていることの一つに、食堂の環境整備がある。全国の6工場、海外の3拠点すべてに食堂を設置し、おいしくて、安く、豊富なメニューを提供し、好評を博しているという。
また、企業独自の健康休暇、家族休暇の設定や、積立有休休暇を最大60日とするとともに、出産一時金30万円、子どもの小・中・高入学時の祝い金10万円を支給するなど出産・育児に対する環境整備を図っている。こうした環境整備の結果、例えば女性の出産・育児などからの復職率がほぼ100%に達するなどの成果が得られており、同社は引き続き生産性向上につながるモチベーションアップへの取り組みを進めていく方針だ。

コミュニケーションの充実により人材確保・成果を高め、さらなる利益還元の原資を

継続的な賃上げのためには、会社がよい成果を出し続ける必要がある。働く環境や制度がどんなによくても、それが必ずしもよい成果につながるとは限らない、というのが同社の姿勢だ。今、同社がよりよい成果を出すために必要であると考える課題は、コミュニケーションだという。従来は全国の幹部が一堂に集まって会議や議論をしたものだが、ネットワークの発達でそのようなこともなくなり、直接的なコミュニケーションが減少している。利便性や合理性だけを追求していくと味気ない会社になり、人材確保も困難になり、会社としての成果向上も望めないのではないかとの危機感を募らせている。
こうしたことから、同社では、工場敷地内での桜祭りの開催やホタルが棲み着くビオトープの構築、サッカークラブ「カワムラFC」の運営など、直接的なコミュニケーションの機会を確保するとともに、これからの人材となる地域の住民や子供たちとのコミュニケーションづくりにも力を入れている。
1919年から創業者が大切にしてきたことは、従業員を家族同様に思うことだった。時代とともに働き方も変わってきたが、同社の底流に流れている「思い」は変わらない。