賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 06
賃上げ取り組み事例

株式会社メンバーズ

デジタルマーケティング事業

2023/2/1

「Creator’s Value1.6」を掲げ、10年間で欧米並みのクリエイター賃金を目指す

企業向けデジタルマーケティングやDX関連事業を支援するプロフェッショナル人材サービス。サスティナビリティの視点からクライアントの企業価値を転換する同社の社会課題解決支援サービスは、多くのナショナルクライアントの支持を得ている。

company 企業データ
  • ●代表取締役社長:剣持 忠
  • ●本社所在地:東京都中央区晴海一丁目8番10号 晴海アイランドトリトンスクエアオフィスタワーX37階
  • ●従業員数:2,290人(2022年9月末時点)
  • ●設立:1995年6月26日
  • ●資本金:10億1600万円(2022年9月末時点)
  • ●事業内容:デジタルマーケティング事業
company

IT人材の確保とクリエイターの価値向上を目指して

同社は、2022年4月から全社員を対象にベースアップと2%強の定期昇給率引き上げを実施。さらに、業績伸長に伴い決算賞与を支給した。これは、同社が2030年までに基準年収を1.6倍に引き上げることを目指す「Creator’s Value1.6」に基づいており、2020年に全社員7,000円のベースアップを、2021年にベースアップと共に初任給2万2千円アップを行い、賃上げを継続している。組合を有しない同社は「MembersWay委員会」を設置しており、年一回「メンバーズ協議会」において社員と経営が話し合う。前述の2020年のベースアップおよび初任給のアップはこの場の協議に基づき実施に至った。
経営的視点でいうと、賃上げはIT人材の確保を目的としているが、そこにはデジタルクリエイターの価値向上という同社の社会的使命もあるという。DX時代においては、デザイナーやエンジニアといったクリエイターがバリューを発揮する。しかしながら、現実的に必要とされている人材であるはずの彼らの仕事が、日本の経済構造の中ではややもすると下流業務と捉えられ賃金が抑えられる傾向にある。同社はマーケットリーダーとして、日本のクリエイターの価値を引き上げるという使命から「Creator’s Value1.6」を掲げた。日本のクリエイターの賃金を10年間で欧米と同等の1.6倍にするという目標である。

スキル向上に見合った値上げと間接経費削減を原資に

同社は、社員の市場価値向上を背景とした値上げと、会社規模拡大による間接経費削減の両輪で賃上げの原資を確保している。クリエイター人材をアサインし、クライアントと共に形成したチームで業務を遂行する同社のサービス形態において、時間の経過と共にクリエイターは実力を上げ、より高い成果を得るようになることから、同社では毎年クライアントに対し値上げ交渉を行っている。また、業務領域をDX事業等のより付加価値の高い技術・サービスに移行することで増収を実現している。しかしながら、値上げを継続するには、クリエイターのスキルを着実に上げ続ける必要があるため、人材育成は恒常的課題となっている。そこで同社は、カンパニー制をとることでこの課題に対応。デジタルクリエイターはより専門的・先進的なスキルが求められるため、通常の大きな組織のくくりの中では、細微に至る専門スキルを育成しにくい。そうした考え方に基づき、20人〜100人が所属する十数個のカンパニーをつくり、カンパニーごとに専門スキルの採用・育成をスピーディに進めている。
こうしたビジネスモデルは、新しい技術領域への参入においても効果を発揮する。カンパニーの事業領域は「デジタルマーケティング支援」「システム開発サービス」といったWebマーケティングにとどまらず「医療業界向けDX支援」「AIスペシャリストによるビジネスグロース支援事業」等多岐にわたる。

より高度な付加価値領域に進出し、採用競争力を強化

現在、中途採用市場は非常に活況であり、とくにIT人材は奪い合いの様相を呈している。そうした状況において、賃上げは同社の採用を有利にしている。また、同業界の離職率がおよそ20%ある中で、同社は10%弱と格段に低い。これは賃上げの効果に加えて、同社のカンパニー制が奏功している。カンパニー間でのローテーションは、転職しなくても様々な専門スキルを社内で学ぶことができ、クリエイターとしての長期的な成長が望めるからだ。また同社は、札幌・仙台・神戸・福岡の地方拠点でも採用を行っている。さらには拠点のない地方においても在宅勤務者を採用しているが、全国一律の給与テーブルとしている同社の賃金は、地方の相場より10%程度高く、地方での採用競争力は明らかに強い。
今後は、より付加価値の高い技術・サービスの領域に進出し、どこまで成果を上げられるかが重要課題となってくる。現状で一定の成果はあげているが、今のペースのままではまだ足りないという意識を持ち、さらにカンパニーを増やし、クリエイターを育て、しっかりと成果に結びつけることで「1.6倍」を目指す。