賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 04
賃上げ取り組み事例

株式会社デナリファーム

イチゴ・サツマイモの生産・販売

2023/2/1

収益性が高く安定した農業ビジネスを続けるために、栽培ハウス内の環境を自動調整できるシステムを導入し、省力化と増収を両立

company 企業データ
  • ●代表者:平岡 誠
  • ●本社所在地:山口県岩国市由宇町
  • ●従業員数:16名
  • ●設立:令和元年12月
  • ●資本金:600万円
  • ●事業内容:イチゴ・サツマイモの生産・販売
company

作業の省力化と増収を両立し、パートタイム労働者の賃金を引上げ

デナリファームは、海上自衛隊にいた平岡代表とその友人が、農業に魅せられ、岩国で農業をやりたいという思いが募り設立した会社である。
人手不足や採算性などを理由に農業に従事する人口が減少している中、ビジネスとして成り立つ農業とはどのようなものなのかを模索し続けてきた。試行錯誤を繰り返し、作業の省力化を図るとともに、「きつくなくて、長く農業ができること」「普通のものを、普通の価格で、安定的に供給できること」をモットーに取り組んでいる。労働賃金がより高い職場がある中で、農業を選んで働いていただいている方は大切な人材であり、農業の未来のためにもぜひ定着して長く働いてほしいと願っている。
これを実現するために、厚生労働省の業務改善助成金を利用し、これまで人の手で行っていたビニールハウスの環境制御を自動化する環境制御システムを導入。この環境制御システムにより、ビニールハウス内の温度・湿度・日照時間・給水などの環境が機械的に制御されたことから、作業の省力化に繋がり、作物の生育環境が安定・良好化し、安定的な生産量を確保できるようになるとともに、規格外品は減少して良質なイチゴを生産できるようになった。その結果、令和3年9月にパートタイム従業員15人の時間当たり賃金額を30円引き上げることができた。働きやすい職場を目指しているデナリファームでは、パートタイム従業員が自分の都合に合わせて出勤できる自由出勤制を採用しているが、繁忙期と閑散期の情報を共有することで人員をうまく確保することができ、効率的に作業を行うことができるようになった。
賃金の引き上げ及び自由出勤制の効果もあり、働くことを希望する方が増え、働き手を確保できている。

事業の再現性・安定性を高め業績が向上、価格転嫁にも積極的に取り組む

ビニールハウス内の環境制御システムは、センサーで気温や二酸化炭素濃度等を感知し、ハウス内が事前に設定した環境に維持できるよう、自動で窓やカーテンの開閉、空調の操作などを行う。また、ビニールハウス内の環境データを自動でクラウドに蓄積するため、どのような条件でどれだけの生産量があったのかというデータを容易に得ることができ、あとから生育条件の見直しに役立てることもできるため、品質面や生産性の向上につながった。廉価なシステムではないため、導入資金の調達に悩む農業事業者も少なくないが、デナリファームは業務改善助成金を活用し、山口県内でもいち早くこのシステムを導入することができた。
これまで環境制御は人の感覚や生活リズムに即して行っていたが、これがシステム化されることで生育環境は均質化・最適化され、再現性も高まり、数ヶ月先までどれくらいの生産量を確保できるのか見通しが立つようになった。農産品の品質や生産量が安定すれば、供給の安定にも繋がり、農産品をB to B で販売しているデナリファームにとって、取引単価の向上にもなる。システムの導入後、業績は12%程度向上し、システムの導入費と賃金引上げによる人件費の増大分をまかなうことができている。
また、物価高騰の影響により梱包資材などの価格が上昇し、経費の負担が増大している。そのため、取引先には価格転嫁への理解をいただくための取り組みを積極的に進めている。「普通のものを、普通の価格で、安定的に供給すること」をモットーにしているので、買い叩きに繋がりかねない価格重視の取引を避け、大量の需要に対しても安定的に供給できることを付加価値として、取引先と価格交渉を行っている。日頃から取引先との良好な関係を築きつつ、必要な価格転嫁を受け入れてもらうことで、賃金の引き上げ及び物価高騰に対処している。

 一般の消費者ではなく事業者を相手に行う取引形態

継続的に賃金を引き上げるために、効率化・増収に向けた投資を

デナリファームは、これからも賃金の引き上げに取り組んでいくために、業績が良い時に利益を貯め込むようなことは控え、積極的に従業員に還元していく考えだ。その結果、仕事へのモチベーションが高まり、生産性も向上し、会社との連帯感も強くなっていくことが理想的である。
一方で、事業を拡大していくためには、収穫量を増やし業績を向上させていく必要がある。作業の省力化・効率化を進めながら、収量増大に向けた投資を行いつつ、働いてくれている従業員と共に、さらなる目標へとチャレンジしている。